FEATURE

「クラフト」という自分を消したものづくり

インタビュワー   一田   憲子
2020.11.06 update.
vol.6

「ラッタラッタル」のものづくりは「デザイン」と「クラフト」の2つがあります。絵を描くなど、障害者の方の中からこぼれ出すものをアトリエスタが支援しながら商品化するのが「デザイン」。対して「クラフト」では、ラグマットやポットマット、キーホルダーなど、決められたものを作ります。そこで、「クラフト」部門で支援者として働く水澤春奈さんにお話を伺いました。

最初にクリエイティブ・ディレクターの須長さんが基本的なことを説明してくれました。

「『ラッタラッタル』は、障害者の作ったものが売れないという相談からスタートしました。僕は北欧雑貨の店も営んでいるので、北欧のものづくりに触れる機会が多いんですよね、北欧は高福祉、高負担だから、人件費が高く、物価も高い。なのに世界中で北欧メイドのものが売れています。その理由を考えてみると、デザインや伝統工芸に魅力があるから。モダンで新しいデザインがどんどん生まれているけれど、昔からずっと続く織りや木工などの手仕事で作られた道具が多くの人に愛されています。そこで、このアトリエでも『デザイン』と『クラフト』という2本の柱をつくることにしました。それで、まずはスウェーデンの伝統工芸協会に行って指導を受けてきたんです。パターンデザインを教えてもらったり、織り機を選んでもらったり。それが今の「クラフト」の土台となっています」

水澤さんは、最初は利用者の送迎をするアルバイトとして「ラッタラッタル」に入ったそうです。やがて事務的な仕事を手伝うようになり、一昨年からアトリエスタに仲間入りしました。障害者の方と接するのは今回が初めてだったそうです。

今、具体的にどんなものを作っているのでしょうか?

「布を裂いて織る裂織りと麻紐で作るキーホルダーの2種類ですね。プラスして、スウェーデンの白樺のカゴも作っています。商品はすごく人気なんですが、同じものを淡々と作るマニュアル的な作業になってしまいがちなので、「自分が作りたい」という独創性の部分をどう育てるかを模索しているところです。今、テキスタイル作りから縫製までを『ラッタラッタル』で手掛けようという計画があって、そうするとオリジナルの生地でミトンやクッションを作ることができるので、楽しみですね」。

織りの作業は、まずアトリエスタが織り機に縦糸を張って成形をすることからはじめなければなりません。つまり、利用者と同じように織りの初心者だった水澤さんは、そこからスキルを身につけなければならなかったそうです。

「ひたすら勉強しましたね。利用者さんにすごく詳しい方がいて、一緒にやることにはなっていたんですが、まったくわからないと不安なので。今はやっと慣れました。今の仕事はまず、その日に利用者さんに指示を出すことから始まります。体調などを聞きながら、じゃあ今日はこれをしましょうか?とか……。ただ、これがなかなか難しくて。自分のことを人に伝えることができない、というのも障害の特性のひとつなんです。だから『今日は体調が悪いから作業をやりたくない』ということをなかなか言い出せない……。そして、後から『あの時はやりたくなかった』と、他のスタッフに言ったりするんですよ。追い込まれてからやっと言葉に出せる。それまでは、表情からも読み取ることが難しいですし……。そういう体調や心のケアは本当に難しいですね」。

織りの作業は、最初から最後までひとりの人が担当するそうです。

「何センチまで織ってね、というサイズのチェックだけはしますが、ぎゅっと詰まって織る人、ふんわり織る人で仕上がりが全然違うんです。でも、あえて均一性は求めず、その人それぞれの出来上がりでいいと思っています。買ってくださる方も、あれこれ並べて『どれにしようかな?』と選んでくださるので、それも手作りの面白さだと思いますね」。

決まった行程があるからこそ、失敗もあります。

「一度失敗して自信をなくしてしまった方には、『大丈夫だから』と声をかけて、少しできたらひたすら褒めます。「やったね!成功したね!」って」

さらに、ひとつの作品を仕上げることに対する意識も人それぞれです。

「おかげさまで、今クラフトの商品はすごく人気があって、あちこちから注文をいただいているんです。以前は私たちが注文を管理していたんですが、利用者さんから、『自分が何のために織っているのかわからなくなるから、スケジュールを貼り出してほしい』という希望が出ました。そこで、今何がどれぐらい注文が入っているかを表にした貼り出したんです。でも、逆にそれを見て『プレッシャーをかけられている』と感じてしまう人もいるんですね」。

障害者の方々は、商品を作っているという意識を持っている人もいれば、そうでない人も。そんなひとりひとりと向き合いながら、一定のクオリティを保つ作品を生み出す支援は、「デザイン」とはまた少し違うアトリエスタのスキルが必要なようです。

「私たちは、ものづくりのサポートをしながら、実際は障害者の方々が、手順通りに進める力や、時間を意識して作業をする力を身につけられるように支援をしているのだと思います。個性を生かして自由に描く『デザイン』とは違い、決められてことときめられたように進める力がつけば、就職に結びつくトレーニングにもなります。人によって、障害の特性や作業の考え方が違うので、伝え方をひとつひとつ考え、変えながら支援しきたいと思っています」。

そんな中で、楽しいって思えることは何ですか?と聞いてみました。

「私がいつもドタバタしているのをみて、みんなに助けてもらっています。ある利用者さんが、キーホルダーの作り方のマニュアルを作ってきてくださったんです。それがすごくわかりやすいんですよ。こちらが支援しているのか、私が支援してもらっているのか、わからなくなっちゃう(笑)。でも「できた!」っていう達成感に溢れた表情を見たり『楽しい』って言ってもらえたら、やっぱり嬉しいですね」。

最後に水澤さんは「クラフト」の魅力について、こんな風に語ってくれました。

「『デザイン』は、たとえば絵がカレンダーになる、など自分の作品が使われた商品が一目でわかります。対して『クラフト』は、どれが自分で織った織物かはわかりません。でもその代わり、自分が直接作ったり、織ったりしたものがそのままお客様の手に渡り、使っていただけるんです。だから手も清潔にしておかなくてはいけないし、丁寧に仕上げなくてはいけない。そんな緊張感や責任感を持って仕上げた商品は、本人が思っている以上に意味があるものだと私は思います。誰が作ったものかわからずとも、失敗しながらも、自信をなくしながらも、仕上げたものは、手作りの温かみが詰まったものになると思います」。

「ラッタラッタル」から生まれた「クラフト」には、こうして障害者と支援者というふたりの経験と時間が交差し、編み込まれています。「決められたものを決められたように作る」という制限があるからこそ、ふたりの協力が「成熟」という形で実っているようにも思えます。

Interviewer

一田憲子
一田憲子Norico Ichida

OLを経て編集プロダクションに転職後フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手がける。 2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」を2011年「大人になったら着たい服」を(共に主婦と生活社)立ち上げる。 そのほか、「天然生活」「暮らしのまんなか」「クレア」「LEE」などで執筆。 全国を飛び回り取材を行っている。

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