FEATURE

福祉の立場から「ラッタラッタル」を考える
白石圭太郎さん 澤田駿介さん

インタビュワー   一田   憲子
2020.05.31 update.
vol.1

ラッタラッタルを運営しているのは、障害者の就労支援などを行う「株式会社チャレンジドジャパン」です。そこで、今回は代表取締役の白石圭太郎さんと、常務取締役の澤田駿介さんに福祉の立場からのお話をうかがいました。

チャレンジドジャパンは、2008年12月に創業。企業が障害者を一定数雇わなければならないと「障害者自立支援法」が施行されてまもない時期でした。これを機に障害者は「守ってあげるべき存在」だったのが、「自立して生きていけるよう支援する存在」へと法律上の見方が変わりました。そして、それまで社会福祉法人だけが手がけていた福祉サービスが、民間の会社でもできることになったのです。そんな流れの中でチャレンジドジャパンは創業されました。そして、今回お話を伺う白石さんは三菱東京UFJ銀行で、澤田さんは三菱重工でバリバリと働いていたサラリーマンでした。

まずは、ビジネスの第一線で仕事をしていた人が、福祉の仕事に興味を持ったきっかけについて伺ってみました。

「10年以上前から知っているダウン症の女性が、今この『ラッタラッタル』のアトリエにも通っています。彼女は僕よりひとつ年上で37歳になるのですが、当時通っていた福祉施設では、トイレ掃除をやっていました。彼女に『仕事は楽しい?』って聞いてみたら、『楽しい』って答えたんです。『そうか、トイレ掃除でも楽しいのか……』と不思議に思いながら、さらによく聞いてみると、彼女はトイレ掃除以外の仕事があることを、まったく知らなかったんです。彼女の可能性はもっと広がるはず。そう思いました。

2008年当時は、福祉施設というと街中から離れた山里などにありました。僕は、自分のこととしてそこへ通うことを想像してみたんです。もし僕がこんな山奥で紙箱の組立作業などの仕事をして、毎日を過ごすとしたら……。それじゃあ、今僕たちが当たり前に過ごしている『社会』という場から孤立してしまうだろう。そんな社会の課題を、自分たちの手が届く範囲できっと解決できるはずだ、と感じたので、これは取り組まなくてはとこの会社を創業しました」と澤田さん。

それにしても、自分の力で営業成績を上げることでやりがいを感じるという資本主義の只中から、福祉という真逆の価値観へと移行できたのはなぜなのでしょう?

「たぶん、僕は真逆だと思っていないんだと思います。就労支援というサービスは、利用者さんと契約をして提供するものです。施設が存続するためには、よりよいサービスを提供して、障害のある利用者さんに選んでいただける存在であり続けなくてはいけません。そのために、障害者の方々の就職の実績を出し、その就職に満足して頂かなければいけないんです、お客様によりよいサービス、より大きな価値を提供する、という意味では、一般企業とそんなにかわらないんじゃないかと思います」と白石さん。

どうやら、福祉の仕事にも「ビジネス」という視点は、とても大切なもののよう。

「福祉の仕事ってどうしても『優しい気持ち』が重視されます。利用者さんのために、と考えすぎて、それだけで燃え尽きてしまう。でも、僕は今、働いてくれている職員にもよく言うんですが、『一番大事なのは自分』でいいと思っています。『自分が働き続けることによって、自分のレベルを高めて、よりよいサービスが提供できる人材になってください。そのためには、時にはストレスコントロールをして、きちんと休まなくちゃいけない』と伝えています。『人のため』という気持ちだけでは、持続可能なシステムはできませんから」と澤田さん。

障害者の就労支援で、一番大事なことは利用者と就職先をマッチングさせること。でも、「それでやっと半分なんです」と澤田さんは言います。「利用者さんが就職して、満足し、幸せな生活を送ってもらうことはとても大事です。でも残りの半分は、そういった利用者さんの行動をみて、世の中の企業の人々や、社会の考え方が変わったり、行動が変わったりすること。そういう社会へのアプローチが大きな使命だと考えています」

福祉的視点とは、「こっち」と「あっち」を両方きちんと見る、ということなのかもしれません。支援者と障害者どちらもが健全に仕事ができる。障害者と健常者は、互いに作用しあうことで、社会という大きなしくみが変わっていく……。どちらか一方に偏りがちな視点を広げ、表と裏の両方から見てよりよい方向へ進んでいく。福祉はそんなふたつの視点を結ぶ役割を担っています。

障害者の方が就職するためには、自分の特性をきちんと知ってもらうということが大事なのだとか。支援員は面談の中で、その人その人の適正を伝え、「できること」と、「やりたいことをやるために必要なこと」を提示するそうです。ところが……。澤田さんはこんな風に語ってくれました。

「ある時、そういった就職支援から漏れている方がいる、という事実を知ったんです。たとえば先程の女性のようなダウン症の方が民間の事務の仕事をするのはやっぱり難しい。すると、トイレ掃除になってしまう……。そして、月々1万円ほどの収入しか得られない。そういう方たちが働く可能性って、もっとあるはずだと考えました。それがいったいなんだろう?とずっと考えていたときに、須長さんと出会ったんです。そして『デザイン』というものが、障害のある方が持っている能力を社会的価値へ変換してくれる力を持っているんじゃないかと考えるようになりました」

さらに白石さんはこう言います。

「就労支援について、一般企業の方と話をしていると、今はAIなどが発達して、一般の仕事でも30%が消滅してしまうだろうと言われているそうです。事務の補助などは機械でできてしまうので、どんどん人が不要になってしまう。そして、それが今障害者が割り振られている仕事というのが現状です。でも、もし『クリエーション』という新たなスキルを障害者の方に身につけていただけたら、新しい仕事や生き方の提案になるんじゃないか、と考えています。だから、この『ラッタラッタル』は、未来の就労支援の実験場でもあってほしいんです」。

今、「ラッタラッタル」での試みは、少しずつ実を結びつつあります。昨年、「ラッタラッタルの活動」によってグッドデザイン賞を受賞。ストール、ハンカチ、器、カレンダー、ラグ、ポットマットなど商品数は700アイテムまで増えました。今後の課題は、いかに多くのお客様に、この商品を届けられるかということ。

「もちろん、売り上げを上げ、障害者の方へ還元するということも目的なのですが、もっと大事なのは、ものが広がっていくことで、障害がある方の能力や可能性がより広がるということです。そして、社会の認知が変われば、一般の人の考えや行動も変わって、障害がある方の生活条件を一般の人と近づけ、社会の障害を無くすことができます。障害って、社会の無理解だったり、物理的なバリアだったりと、社会の側にもありますよね。それをなくしていきたいですね」と澤田さん。

「ここの利用者さんが、10年後にどうなっているか。その未来像を描くために、いろんなケアや仕組みを作らなくてはいけない。障害のある方のライフクリエーションが大事です。究極的に福祉とはヒューマニゼーションで、その人がきちん一人の人として社会的に生きられるかどうかだと思っています。そういう意味では、クリエイティブディレクターの須長さんが、一人一人の利用者さんを尊重して見てくださっているので、『ラッタラッタル』はとても福祉的だなと僕は思っています」と白石さん。

澤田さんと白石さんにとって、この『ラッタラッタル』の活動は、福祉という枠を超えて、世の中に「仕事とは何か?」「人が生み出す価値とは何か?」を問うチャレンジだったよう。人々はいろいろな能力を「仕事」に変え、「お金」に還元して日々の営みを送っています。でも、事務仕事やトイレ掃除といった従来の仕事の外側に、今までみんなが気づかなかった

「価値」が眠っている……。それを土の中から掘り出し、芽吹かせ、花を咲かせたのが、「ラッタラッタル」のアートです。その上で、クリエーションを単なる「趣味」に終わらせず、きちんと「価値」をつけ、お金に変え、ひとりひとりの人が持つ能力が、その人を支えるしくみを作る……。「ラッタラッタル」の福祉的意味とは、どんな人であっても、自分の糧を得る能力を、自分の中から発掘できる、という未来の可能性を指差すことのような気がします。

Interviewer

一田憲子
一田憲子Norico Ichida

OLを経て編集プロダクションに転職後フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手がける。 2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」を2011年「大人になったら着たい服」を(共に主婦と生活社)立ち上げる。 そのほか、「天然生活」「暮らしのまんなか」「クレア」「LEE」などで執筆。 全国を飛び回り取材を行っている。

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